2017/12/27

学校法人における資産運用と資金調達 4


 前回は学校法人における資金調達に関連する活動について解説しました。今回は金融商品取引法の規制の対象となる学校債の発行について解説します。
 なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する法人の公式的な見解ではないことを申し添えます。

1 学校債の有価証券指定について
 金融審議会において、投資性の強い金融商品・サービスに、すき間なく同等の投資者保護のための規制をかける必要があるとの指摘がなされたことを踏まえ、平成18年に証券取引法が改正され、金融商品取引法(以下「金商法」とします。)が制定されました。この新しい金商法制の下、同法施行令において、一定の要件を満たす学校債を同法の規制の対象となる有価証券として位置づけることとされました。(平成19年9月30日施行)

⑴「有価証券としての学校債」(金商法2条1項)
 金商法は、次のものを有価証券(学校債券)として指定しています。それは、学校法人等が行う割当てにより発生する当該学校法人等を債務者とする金銭債権を表示する証券又は証書で、学校法人等の名称、金額等の一定の事項を表示するものです。このような学校債券は、株式等と同等の流通性があるなど公益又は投資者保護の観点から、有価証券として指定する必要があるため規定されました。ただし、債権者が特定している通常の債権、すなわち、指名債権でないものに限られます(民法467条、468条)。

⑵「みなし有価証券としての学校債」(金商法2条2項)
 また金商法は、学校法人等に対する貸付けに係る債権であっても、利率等の条件が同一で複数の者が行う有利子貸付け等であり、かつ、在校生その他利害関係者以外の者が行う貸付けに係るものであること等の要件に該当するものを「みなし有価証券」と指定しています。このような学校貸付債権は、利息があり、かつ一般人にも発行又は譲渡可能であることから有価証券とみなすことにより公益又は投資者保護をすることが必要かつ適当なものとして規定されました。

2 情報開示
 平成19年10月31日には、私立学校法施行規則の一部が改正され、「有価証券発行学校法人の財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(平成19年文部科学省令第36号)が公布されました。ここにおいて当該学校債を発行する学校法人の情報開示義務が次のように規定されています。

⑴金商法上の有価証券(みなし有価証券含む)に該当する学校債が一定の要件を満たす場合、投資家保護のため、学校債の募集主体に対して、厳格な情報開示義務が課されます。

⑵学校債の募集主体は、有価証券届出書等の各種書類を作成し、内閣総理大臣に提出するとともに、公衆縦覧に供する必要があります。

⑶各種書類の中には、企業会計原則の考え方に基づいた財務諸表(計算書類)が含まれます。当該財務諸表は、学校法人会基準に基づく計算書類とは別に作成する必要があります。

 みなし有価証券としての学校債については、募集者が500名以上かつ募集額が1億円以上の場合、上記の開示義務が発生するとしています。ただし、平成19年9月29日以前に募集・売出を開始した分については不要となっています。

3 開示書類
 金商法上の学校債を発行する場合に作成が必要となる書類は以下のものとなります。

⑴ 有価証券届出書・・・有価証券の募集、売り出しに際して提出すべき届出書。

⑵ 有価証券報告書・・・有価証券の発行者が事業年度経過後3ヶ月以内に提出すべき報告書

⑶ 半期報告書・・・有価証券の発行者が半期毎に3ヶ月以内に提出すべき報告書

 有価証券届出書の提出は、有価証券の発行価額、売出価額の総額が1億円以上で 50人以上に勧誘する場合、又は適格機関投資家(銀行、証券会社、保険会社、信用金庫等)以外に勧誘する場合に適用され、効力発生時から5年間、公衆縦覧に供されます。ちなみに、1億円未満のものについては代わりに有価証券通知書の提出が必要となりますが、1,000万円以下の場合は提出が不要となります。

 「有価証券発行学校法人の財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(平成19年文部科学省令第36号)に基づいて作成が必要となる財務諸表は以下のものとなります。
①貸借対照表
②損益計算書
③純資産変動計算書
④キャッシュ・フロー計算書
⑤附属明細表

 上記した財務諸表は、学校法人会計基準に基づく計算書類とは大幅に異なる様式を採用しており、また適用される会計基準は、上場企業に適用されている会計基準に準拠したものとなります。すなわち、「退職給付会計基準」、「減損会計基準」、「連結財務諸表」など比較的難解な会計基準の理解が必要となりますから、経理作業が従前に比べ膨大なものとなります。また当該規則に従った会計システムの構築に際しては多額の費用が発生することが想定されます。さらに、その財務諸表を監査する公認会計士等に支払う監査費用については、通常の私学振興助成法の監査費用に比べて数倍になるとの話しもありますから、費用対効果を勘案して当該学校債を発行すべきかについて検討すべきです。
 こういった事務負担やコストの増大もあり、金商法の規制の対象となる学校債は現在のところ発行実績はありません。実際に発行されている学校債は、メインバンクを引受先とした適格機関投資家向けのものが大多数となっています。

[参考]
文科省発表資料「学校債の有価証券指定について」

                                                                                  (永和監査法人 公認会計士 津村 玲)










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