2017/02/01

学校法人における不正会計 1

 今週から4回に分けて、学校法人における不正会計について解説していきます。最近、大企業において「粉飾決算」「不正会計」「不適切な会計処理」といった言葉が報道されることが多く、これが一般的な出来事になりつつあり、会計監査を仕事としている私たち公認会計士からするとよい風潮ではありません。もちろん不正会計が行われば、それを防止するための施策が企業内に組み込まれますが、また新たな手口で不正が行われます。

 大企業ばかりではなく、学校法人においても不正会計が報道されています。その多くは経費の不適切な支出や保護者等からの預り金を管理している周辺会計における不正です。今回のコラムでは、学校法人における不正会計の事例、特徴や対応策などを中心に解説していきます。なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する法人の公式的な見解ではないことを申し添えます。


1 最近の学校法人における不正会計の事例

(1) 寄付金の不適切な募集とその資金の横領が明らかとなった事例
 以下の事案は、平成26年10月に発覚したA学院における学校法人外の任意団体(周辺会計)を利用した不正です。任意団体(周辺会計)の設立以降22年間に渡り224百万円という多額の使途不明金が発生したことが地方新聞紙において大々的に報道されています。

≪事案の概要≫
・ 学校法人とは別の団体である後援会が保護者等から会費を募り、毎年、後援会活動後の残金を学校法人に寄付していたが、会費の収受に当たり後援会は保護者に学校法人名の「寄付金領収書」を発行していた。
・ 学校法人(大学)が後援会を通じて学校法人(大学)の保護者等からの納付金の寄付を受けることは、「私立大学における入学者選抜の公正確保等について(通知)」(文科省)第454号6(5)のとおり、「入学者又はその保護者等関係者から大学の教育研究に直接必要な経費に充てられるために寄附金又は学校債を募集する場合は、後援会等によらず、すべて学校法人が直接処理すること。」の要請に反するものであった可能性が高い。
・ 一人の事務長が後援会の会計を長く担当し、資金を着服(およそ224百万円)していたことが判明した。

(2) 預り金に係る不適切な支出が明らかとなった事例
 以下の事案は、平成27年3月に発覚したB中学・高校における簿外の預り金を利用した不正支出です。生徒から必要以上の「教材費」などを徴収し、余剰金を「隠し口座」にプールしていました。所轄庁は「悪質な裏金」と判断し、支給予定であった私学補助金(約5億円)を大幅に減額する方針を決めました。B中学・高校は全国区の知名度を誇る学校であっただけにマスコミにおいて大きく報道されました。

≪事案の概要≫
・ B中学・高校は毎年度初めに教材費を「概算額」として保護者から多めに徴収していた。学校法人会計基準は、預り金を含む学校運営に関する全取引を学校法人の会計で処理するよう定めているが、同校は余剰金を運営母体の学校法人の会計には入れず、複数の隠し口座で管理していた。
・ 口座からは定期的に金員が引き出され、学校職員らが交際費として飲食代や高級ブランド品の購入に充てていたという。口座の取引履歴から、少なくとも10年前から裏金が常態化していたとみられる。
・ 同校では昨年10月、予備校が実施する模試の受験料に加え、「事務手数料」の名目で1人あたり数百円を生徒側から徴収し、校長名義の口座で管理していたことが発覚。所轄庁の指示を受け、学校法人が弁護士らによる第三者委員会を立ち上げ調査していた過程で、裏金が明らかになった。

(3) 理事による私的な経費の流用が明らかとなった事例
 以下の事案は、平成27年9月に発覚したC学園における学園長(理事長の娘)による多額な私的流用です。表向きはグローバルな人材育成が目的の海外視察でしたが、4年間にわたり、高級ホテルへの宿泊や宝石店でのショッピングなどを学園経費で繰り返し行っていました。

≪事案の概要≫
・ 学園長が平成24~27年に児童の海外修学旅行に同行した際、遊園地やカジノを訪れるなどして学園の費用約1千万円以上を私的に流用した疑いがあることが判明した。学園は理事会で、学園長に役職辞任や流用分の返還などを求めた。
・ 学園長は、平成26年11月、同校が約1週間実施した海外修学旅行に合流するなどして、計約30日間米国に滞在、遊園地やカジノを訪れるなどしていた。翌年2月にも「研修先の開拓」との目的で渡米し、ミュージカルを鑑賞した。学園長は、海外出張費「1億1,500万円」のうち「5,617万円」を不正支出したと認定され、懲戒解雇となった。また、常務理事(学園長の母)はこの出張報告について勝手に理事長の承認印を押していたため、諭旨解雇となった。
・ 学園は外部からの指摘を受けて外部理事らで構成する調査委員会を設置。調査委は「学内の旅費規定以上の支出があった」と結論付けた。
・ その後国税局の税務調査により、出張の計画書や報告書がなく、業務関連経費とは認められない支払いが他に「1千数百万円」あることが判明。国税局は、学園の調査委員会が認定した分と合わせて「約7,500万円」は学園長の個人が負担すべき費用を法人の経費に見せかけていたと認定し、所得税(源泉徴収漏れ)と重加算税合わせて2千数百万円を追徴課税した。学園は、元学園長に弁済させるとしている。

(4) 理事長親族による公私混同・学園の私物化が明らかとなった事例
 以下の事案は、平成28年3月に発覚したD学園における理事長以下親族理事に対する不適切な支出や勤務実態を伴わない給与の支払です。公私混同・学園の私物化といえるような身内への利益誘導と報酬設定や顧問人事などを通して、学園の資金収支の赤字が常態化しているにもかかわらず不適正な支出を続けていました。

≪事案の概要≫
・ 理事長は公用車で通勤していたのに「通勤手当」名目で計約120万円が支出されていたほか、「入試手当」名目で計約105万円の支出もあった。このうち100万円は「入学定員を確保した」という理由付けだった。理事長に対する不正支出は総額で計約4,500万円に上った。
・ 特別顧問に就任していた理事長の母と妻に対しても、勤務実態に見合わない報酬が計約5,200万円支出されていた。理事長の長男である常務理事にも渉外費や旅費交通費などの名目で計約112万円の不正支出が確認された。


2 不正会計事案発生の要因分析
 (1)から(4)の事案を要因別に分けると、預り金などのいわゆる周辺会計に関連した不正と理事長などの経営者等に関連した不正とに分けられます。以下それぞれの要因別に対応策を解説します。

① 周辺会計に関連した不正への対応策
 後援会、保護者会などからの預り金はいわゆる周辺会計において管理されていますが、職員数の制約等でその収支管理を周辺会計事務担当者に長年任せきりにしている場合があります。その場合には、仮に長期間に渡り現金が私的に流用(横領)されていたとしても、気付くことなく発覚が遅れ学校法人に多大な損害を与える可能性があります。周辺会計といえども学校法人の本会計と無関係とはいえず、その上、利害関係者(生徒、保護者、卒業生、マスコミ等)には、その区別がつきにくいこともあり、学校法人本体で発生した事案であると受け取られても致し方ない面があります。
 このような事件が発生する直接的な原因は、長年経理事務を担当していた経理事務担当者の倫理観の欠如によるものではありますが、人事管理上の不備や管理職員の怠慢、無責任等が根底にあることも大きな要因でしょう。以上の点を踏まえ、学校法人内に構築すべき内部統制を以下にあげます。
・ 経理事務を長年に渡り特定の者に担当させない仕組みの構築
・ 年度内においても、経理事務担当者以外の者が定期的に帳簿と証憑書類を照合する仕組みの構築
・ 規約等が未作成の場合は、根拠等を明確にした規約の作成
・ 会計報告の正確性が不十分な場合は、修正の上、資金の出資者等に対し適切な会計報告を行う体制の整備

② 理事長などの経営者等に関連した不正への対応策
 学校法人内にどの程度の規律やルール(以下「内部統制」)を設けるかは理事長などの経営者層の判断に委ねられますが、一方で、この裏返しとして内部統制は経営者層の不誠実な行動に対しては有効に機能することが出来ないとも言われています。つまり、経営者層は内部統制の枠外におり、場合によっては内部統制を無視した行動が可能なのです。以上の点を踏まえ、学校法人内に構築すべき内部統制を以下にあげます。
・ 特定の理事などに校長や学長、法人事務局長などの要職を兼務させない。
・ 特定の理事などに対して自由裁量が認められている場合には、権限・予算規模の縮小を図る。
・ 理事の選任過程、人選方法の客観化・透明化を図る。
・ 公益通報制度の連絡先を外部の弁護士事務所などの第三者とする。
・ 私立学校法上、諮問機関として位置付けられている評議員会の機能の強化を図る。
・ 理事長であっても渉外費等の支出明細(目的、相手、金額等)の透明化を図り、法人カードの使用に際し限度額を設けるなど無制限な使用がないよう牽制する仕組みを構築する。

[参考]
・大学法人の健全運営に貢献する大学内部監査の事案研究(一般社団法人 大学監査協会)
・監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」を学校法人監査に適用する場合の留意点(日本公認会計士協会学校法人委員会研究報告第10号)

 
公認会計士 津 村  玲

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