2016/07/13

退職給与引当金の計算 2

 前回では、退職給与引当金の必要性、計上方法、学校法人が加入する退職金団体の制度などについて解説しました。今回は都道府県別の私学退職金団体と私大退職金財団の退職給与引当金の算定方法について比較しながら解説します。


1.都道府県別の私学退職金団体に加入している場合の退職給与引当金
 私学退職金団体に加入している知事所轄学校の教職員に係る退職給与引当金の計算については、学校法人が規定する退職給与規程等に基づいて算出した退職金の期末要支給額の100%を基にして計算した額から、各私学退職金団体から交付される額を控除した金額を退職給与引当金として計上する計算方法が採用されています。
 この私学退職金団体は、各都道府県ごとに設置されており、私立学校の教職員の退職金負担を軽減するため、私学退職金団体を法人化(財団法人又は社団法人)し、補助金を交付しています。たとえば東京都では、昭和41年度より社団法人東京都私学退職金社団(現在の公益財団法人東京都私学財団(以下、「都私学財団」))を通じて退職資金交付事業が開始されています。都私学財団の退職資金事業は、都所轄の学校教育法第1条で定める幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」(平成18年法律第77号)に規定する幼保連携型認定こども園並びに学校教育法第124条で定める専修学校を対象としています。
 東京都による退職資金交付事業が開始したころは、昭和46年度に標準給与月額の千分の72を退職資金事業の負担金率とし、その2分の1の千分の36に相当する額を東京都からの本事業に対する補助金としてきました。しかし、平成9年度以降は適正負担率の上昇に伴い、数度の負担金率の改正が行われ、平成17年度以降は、負担金率千分の110、加入者負担金率千分の74(東京都補助金率は千分の36で変わらず)として今日に至っております。また、近年の日本経済の長期低迷により、私学退職資金事業の運用環境は悪化の一途を辿っており、予定運用利率については、昭和48年度は6.0%でしたが、平成17年度以降は2.5%に低下しています。他の道府県でも同様の状況にありますが、補助負担千分の36以下のところが多く、また道府県によっては、専修学校、幼稚園について別に退職基金財団などを設置しているところもあり、統一した補助制度にすることが先決です。
 都私学財団では、財政の長期的健全性と事業の安定的継続を図るため、平成27年4月1日より退職資金事業規程の一部が改正されています。主な改正事項は、①退職資金交付指数の改正、②定年延長等に伴う標準給与の取扱いの見直し、③認定こども園の事業対象化、④退職資金事業の資金的独立性の明確化などです。
 このうち、①退職資金交付指数の改正は、平成26年4月より、東京都において普通退職の退職手当支給率が引き下げられたため、東京都の退職手当の新支給率に準じ、都私学財団の退職資金事業の交付指数も引き下げられるというものです。他の道府県の私学退職金団体では、過去に財政的な理由などにより交付水準の引下げを行った団体も少なくありません。その結果、すでに公務員の退職手当の水準を下回っている団体が約3分の1に及び、その他の団体の多くも引き下げを検討しています。現行の都私学財団退職資金事業の交付指数は、加入期間の年数がたとえば「35年以上」で「49.75」となっていますが、改正後は同年数で「45」となり、4.75ポイントの引下げとなりました。ただ、引き下げ後で見ても、他の私学退職金団体の交付指数に比べ、かなり高く設定されています。これは、地方公務員の退職手当について、国の支給率に準拠している他の道府県と、独自の退職金制度を採用した東京都との支給率の相違に由来するものです。
 なお、このような退職金の交付指数の引下げは、都私学財団だけでなく、例えば茨城県の私学退職金団体でも交付指数の引下げが最近行われており、近年の退職資金の運用環境の悪化に伴い、このような動きは全国的に出てくるのではないかと思われます。実際に交付指数の引下げとなった場合には、学校法人の退職金規程等における退職金交付指数も合わせて引下げなければ学校法人の将来的な資金負担額が増加します。したがって、会計上、退職給与引当金の計算において引当額の増加という影響が生じます。すなわち、学校法人で定める退職金規程等における退職金交付指数を改正後の私学退職金団体退職資金交付指数に合わせなければ、退職給与引当金の積立不足となり、差額分を追加計上することが必要となります。
 学校法人と教職員(組合)との関係において、退職金交付指数の見直しとなった場合は不利益変更とみなされ、見直しに至った合理性・必要性がなければ規程改正は原則として認められないものと思われます。したがって、学校法人と教職員(組合)間での労使協定が整わなければ、学校法人の退職金規程等における退職金交付指数は現状のままとなり、将来の受取交付金だけが減少します。このような制度改正が行われた場合には、会計処理上、退職給与引当金の計算に影響しますので、引当不足が生じていないかについて留意が必要となります。


 2.私大退職金財団に加入している場合の退職給与引当金
 私立大学などから久しく持ち望まれていた「財団法人私立大学退職金財団」が昭和56年8月に設立されましたが、これに伴い「私立大学退職金財団に対する負担金等に関する会計処理及び監査上の取扱いについて」が学校法人委員会から公表されました(日本公認会計士協会第29号、昭和58年3月29日(現在は、「退職給与引当金の計上等に係る会計方針の統一について(通知)」に関する実務指針」(学校法人委員会実務指針第44号,平成26年12月2日)に統合されています))。
 この取扱いでは、都道府県別の私学退職金団体に加入している場合と異なり、退職金の期末要支給額から交付金相当額を控除せずに、退職給与引当金を計上することにしました。同じ退職給与引当金について、どうして異なった処理方法が生じたのでしょうか。
 退職金団体の財政は、基本的には各会員からの掛金によって賄われるわけですが、その財政計画の建て方に、事前積立方式と賦課方式があるとされています。事前積立方式は、登録された全教職員について将来必要とされる交付金を賄うに足る掛金を予測し、交付金に要する資金を事前に積み立てていく方式です。都道府県別の私学退職金団体は、計算要素に相違はありますが、基本的には事前積立方式によって運営されています。
 これに対して賦課方式は、年度ごとに、実際に退職する教職員に対して必要とされる交付金の額に見合うだけの資金を、加入学校法人に配分して徴収するという財政方式です。もちろん実務的には、毎年必要とされる交付金の額は統計的に予測し、掛金率も平準化するように調整するわけですが、基本的にはその年度に必要な交付金の額はその年度の掛金で賄うという方式です。「私大退職金財団」はこの方式を採用していますが、正確には「修正賦課方式」(保有資産として退職資金交付額の1年分相当額を保有する賦課方式)を採用しています。したがって、私大退職金財団に加入している学校法人では、退職金の期末要支給額を基準とした計算方式が原則的にとられているのです。

 
(出典:「公益財団法人私立大学退職金財団 事業報告書2014年度」)


3.私学退職金団体と私大退職金財団の違い
 退職金などに係る会計処理の方法は、都道府県を単位とする退職金団体に加入している場合と私大退職金財団に加入している場合では、会計処理が異なります。(詳細は次回解説します。)以下にその違いをまとめましたので、参考にして下さい。


項目 私学退職金団体 私大退職金財団
主な加入者 私立の幼稚園、小中学校、高等学校等を設置する学校法人 私立の大学、短期大学、高等専門学校を設置する学校法人
財政方式*1 事前積立方式
登録された全教職員について将来必要とされる交付金を賄うに足る掛金を予測し交付金に要する資金を事前に積み立てていく方式
修正賦課方式
年度ごとに実際に退職する教職員に対して必要とされる交付金の額に見合うだけの資金を加入学校法人に配分し徴収する方式で、そのうち修正賦課方式は、保有資産として退職資金交付額の1年分相当額を保有する方式
負担金 人件費に属する細分科目、たとえば「所定福利費」、「私学退職金財団掛金」等 人件費に属する小科目のうち独立した細分科目、たとえば「私立大学退職金財団負担金」等
交付金 雑収入に適当な小科目、たとえば「私学退職金団体交付金収入」
事業活動収支計算書では、退職金と交付金を相殺して表示することができる。
  雑収入に適当な小科目、たとえば「私立大学退職金財団交付金収入」
事業活動収支計算書では、退職金と交付金を相殺することなく、両建て表示する。
脱退返還金 雑収入に適当な小科目、たとえば「私学退職金団体返還金収入」 脱退返還金はない。ただし、資格喪失(脱退)した場合、掛金と退職資金の累積額の差額を、学校法人が退職金を支給する都度、退職資金特別交付金として交付される。
退職給与引当金 退職金規程に基づいて計算した期末要支給額から、交付金相当額を差し引いた額を基礎として引当金の計算をする。*2 退職金規程に基づいて計算した期末要支給額を基礎として引当金の計算をする。掛金の累積額が交付金の累積額を上回る場合、その上回る額に相当する額を引当金要繰入額から控除して退職給与引当金の計算をする。*3


*1 財政方式には、「賦課方式」と「積立方式」があります。「賦課方式」とは、給付の原資をそのときの現役世代の掛金で賄うという方式であり、日本の公的年金はこの方式を採用しています。また「積立方式」とは、事前に積み立てた掛金とそこから得られる運用収益で将来の給付を賄う方式であり、民間の保険はこの方式を採用しています。
*2 退職金要支給額よりも交付金相当額のほうが多い場合には、その差額はマイナスではなくゼロとします。
*3 掛金の累積額が交付金の累積額を上回る場合の「引当金繰入調整額」が、「引当金要繰入額」を上回る場合には、その差額を「退職給与引当金戻入額」として処理します。 

(永和監査法人 公認会計士 津村 玲)

【参考】 学校法人会計のすべて・第3版





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