2015/10/21

付随事業・収益事業収入について 3

 今回は、「付随事業・収益事業収入」のうち、受託事業収入に関する取扱いの留意点について解説します。


1.受託事業収入とは
 受託事業収入とは、「仕事の完成を約し、依頼者が仕事の完成に対し、その対価として支払い、依頼された者が受け入れた収入」です。
 例えば、学校法人が自動車メーカーから委託を受けて、工学部などで電動自動車の研究を行い、その研究費を受け取る場合は、この受け取った収入は「受託事業収入」として会計処理します。
 学校法人で見られる受託事業は、学校法人本来の目的である教育研究活動の一環として行われることが多く、その内容としては調査、研究、検査、情報の収集などが一般的に考えられますが、学校法人の収入が受託事業収入に該当するかどうかの判断は、その実態に基づいて行うことになります。


2.受託事業に係る会計処理

(1)受託事業収入の会計処理に関する注意点
 受託事業は、学校法人が依頼者と正規に契約を結んだ上で実施されるのが原則です。しかしながら、学校法人の教員が個人名で契約を結んでいるものがあったり、契約書を作成していないものがあったりするなど問題点を指摘されることがあり、正規の契約権限のない者による契約又は契約書のない契約は、学校法人の内部統制上、適正さを欠くことになりますので注意が必要です。
 なお、契約書の有無、契約上の名義にかかわらず、実質的に学校法人が契約上の受託者である場合は、その契約に係る全ての収入を学校法人の収入としなければなりません。
 例えば、当該受託事業が学校法人の施設設備、人員等を使って、組織的に行われる場合には、実質的に学校法人が受託したものと考えて、その契約に係る全ての収入を学校法人の収入として会計処理します。
 また、教員の研究室等において行った研究、調査等の受託事業に係る収入であっても、研究室等の収入とせずに学校法人の収入として会計処理します。ここで、研究室等とは、研究室と呼ばれるもののほか、講座、教室、医科大学における医局・診療科などが考えられますが、いずれも学校法人の組織の一部です。したがって、研究室等は、権利義務の主体とはなり得ず、たとえ研究室等の名義で行った事業であっても、それに伴う収入及び支出は、学校法人の収入及び支出となり、その使い方も学校法人の定める規程等に従うことになります。
 なお、大学の研究室等が学会等の開催事務を代行する場合がありますが、代行に伴う学会等の金銭と学校法人に帰属する金銭とは峻別しなければなりませんので注意してください。


(2)寄付金収入、医療収入及び補助活動収入と受託事業収入との相違点
 寄付金収入は対価性のない贈与による収入であり、受託事業収入とはその対価性において異なります。その収入に対価性があるか否かについては、個々の具体的ケースについて実質的に判断することになります。 
 例えば、特定の研究に対する研究費の名目で受ける収入であっても、その研究成果が広く一般社会、学会等に公表されるなど金銭等の支払者に帰属しない場合は、「寄付金収入」として処理すべきです。しかしながら、その研究成果が金銭等の支払者に帰属する場合には、当該収入は研究成果に対する対価であり、「受託事業収入」となります。
 医療収入は、医療行為の対価として受け入れる収入であり、補助活動収入は学校法人の教育活動に付随する活動に係る事業の収入で、食堂、売店、寄宿舎などに係るものをいいます。これに対し、受託事業収入は、外部から委託を受けた試験、研究等による収入です。


(3)受託事業に係る支出の会計処理
 受託研究に係る経費等相当額として外部から金銭を受け入れ、同額を当該受託研究が行われる研究室に交付した場合に、教育研究経費支出として会計処理するのは、交付時ではなく、研究室等において実際に経費が発生した時となります。なぜなら、研究室等に対して必要と認められる資金を学校法人が交付した段階では、単なる学園内部での資金移動に過ぎず、経費として発生しているとは認められないからです。したがって、研究室等において実際に経費等が発生しているかについては、購入した物品などに係る納品書、請求書、検収書などの証憑書類を確認した上で判断されます。
 また、研究室等において発生した経費は基本的には教育研究経費支出となるべきものですが、例えば、外部の研究者などに対して手土産を持参した場合には渉外費(管理経費支出)で処理する場合もありますので注意してください。
 なお、小科目については、原則として形態別分類、すなわち、支出の形態に応じて消耗品費、旅費交通費などの費用科目を用いて会計処理します。


(4)受託事業に係る固定資産の会計処理
 受託研究のために、研究室等だけで使用する目的で機器備品等の固定資産を取得した場合であっても、当該学校法人の経理規程に従って会計処理します。したがって、例えば10万円以上を固定資産に計上するという規定であった場合、研究室等が取得した機器備品等が1個又は1組10万円以上であれば、固定資産として貸借対照表に計上しなければなりません。


(5)研究期間が数期間に及ぶ場合の受託事業に係る期間計算
 受託研究等の対価として金銭を収受し、当該受託研究が一会計期間のうちに完了せず数期間に及ぶ場合の受託事業に係る期間計算に関して以下の方法があります。

  ① 対価として収受した金銭及び支出した金銭は、その受託研究等が完了するまでの間は、「前受金」又は
    「前払金」とし、受託研究が完了した会計年度の教育活動収支の事業活動収入又は事業活動支出とする方法

  ② 受託研究の進捗割合に応じて事業活動収入及び事業活動支出を計上する方法
    (建設業などに適用される工事進行基準に準じた会計処理)

  ③ 実際に収入及び支出があった時に事業活動収入及び事業活動支出を計上する方法

 上記のうち①及び②の方法を採用する場合には、個別に収入及び支出を管理することが必要になり、また進捗割合に応じた収支の計算をするには、受託事業ごとの収入総額及び支出総額を見積もることが必要となります。したがって、全ての受託研究に係る収入及び支出をこのように会計処理することは、実務上困難な場合も予想されますので、③の処理のように収入は入金時に入金額を、研究経費は発生時点で経費計上する方法も容認されており、実務上、この方法が多く採用されています。ただし、いずれの方法を採用するかは、契約の実態等を勘案して決定する必要がありますので留意してください。


(6)医科大学等における治験の性格とその会計処理
 治験とは、厚生労働省から医薬品、治療用具等として製造の承認を受ける直前の医薬品又は治療用具等や、承認を受けた後の医薬品の副作用等の臨床試験をいいます。
 治験は、厚生労働省の「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年3月27日厚生省令第28号)に基づいて行われますが、治験にもフェイズ1からフェイズ4までに至る様々なレベルがあり、データ提供のほか、医療行為が含まれる場合があることから医療法上の医業に当たるとの解釈もあり、医療収入として取り扱えるとする考えもあります。
 しかし、治験が医薬品会社等からの委託によって行われ、臨床データも委託者に提供され、治験の報酬は全て医薬品会社等から学校法人に支払われ、患者本人には一切請求しないのが通常であることから、受託事業収入として会計処理することが適当でしょう。


(7)派遣先の病院から医師の派遣に対する謝礼を受け取った場合の会計処理
 提携先の病院に対して医師を派遣し、派遣先の病院から謝礼を受け取った場合には、大科目「雑収入」、小科目、例えば「医師派遣手数料収入」等の適当な科目で処理すべきです。



3.私立大学における受託研究の非課税措置

 平成14年度の法人税法施行令の一部改正により、私立大学(短期大学を含む。以下同じ。)に対する他の者の委託に基づいて行う研究(以下「受託研究」という。)について、一定のものが法人税法施行令第5条第10号に規定する請負業の範囲から除外されています。すなわち、当該研究に係る実施期間が三月以上のもの並びにその委託に係る契約又は協定において、当該研究の成果の帰属及び公表に関する事項が定められているものに限り、請負業として法人税を課税しないものとしています(法人税法施行令5条1項10号ニ)。
 なお、私立大学において受託研究を実施する上での留意点は以下のとおりです。

1.受託研究に要する経費は、学校法人の会計を通して経理すること。

2.受託研究に要する経費を明確にし、受託研究に係る契約又は協定(以下「受託研究契約書等」という。)に明記
  ること。
  なお、受託研究の受入れに当たっては、当該研究遂行に関連し直接経費以外に必要となる間接経費を受け入れ
  ることができること。

3.受託研究の実施期間を明確にし、受託研究契約書等に明記すること。
  なお、受託研究の実施期間が3か月未満のものについては、収益事業の範囲から除外される対象とならず、
  法人税の課税対象となること。

4.受託研究の結果、知的所有権が生じた場合の権利等研究成果の帰属に関する事項を定め、受託研究契約書
  等に明記すること。
  なお、受託研究契約書等に研究成果の帰属に関する事項が明記されていないものについては、収益事業の
  範囲から除外される対象とならず、法人税の課税対象となること。


5.受託研究の研究成果は公表を基本的に前提とし、公表に関する事項を定め、受託研究契約書等に明記する
  こと。
  なお、研究成果の公表を前提としないもの及び受託研究契約書等に研究成果の公表に関する事項が明記され
  ていないものについては、収益事業の範囲から除外される対象とならず、法人税の課税対象となること。


また、私立大学における受託研究契約書(例)を以下にリンクしましたので、参考資料として御活用ください。

引用元:文科省「受託研究契約書(例) http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/003/001/001/001.htm

                                                   (公認会計士 津 村  玲)



〔参考〕

「受託事業等の会計処理に関するQ&A」(JICPA学校法人委員会研究報告第5号)
「私立大学における受託研究について(通知)」(私学部長通知14文科高第26号平成1444日)

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