2016/08/03

基本金について 1

 今月から2か月にわたり基本金について解説します。基本金は、学校法人会計において最も特徴的な科目であり、また、最も理解しづらい科目でもあります。今回は、この難解と言われる基本金について、平易に、かつ、多くの方々が疑問に思っている点に対する回答を含めて、全9回にわたって解説したいと思います。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。
 学校法人会計に初めて携わると、基本金は難しいとか、企業会計の資本金とどのように違うのだろうかと1度は思われるのではないでしょうか。そこで今回は、基本金の解説を始めるにあたり、以下に学校法人会計における基本金と企業会計における資本金について、簡単な比較表を作成しました。本金と本金は、たった1字しか違いませんが、全く異なる概念であることが少しお分かり頂けると思います。
 
 
基本金(学校法人会計)
資本金(企業会計)
根拠 学校法人会計基準第29条 会社法445条
定義 学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その事業活動収入のうちから組み入れた金額 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額
計上区分 純資産の部
学校法人は、寄附行為によって設立された法人であり、何人も学校法人に対する持分は認められない。
純資産の部
株主は株式会社に対し、原則として出資額に応じて、議決権の行使や配当・残余財産を受ける権利を有する。

 
 上記のとおり、基本金は事業活動収入(改正前の帰属収入)のうちから組み入れた金額であるのに対し、資本金は一般的に株主となる者が株式会社に対して払込み等をした財産の額です。すなわち、基本金は、事業活動収入の一部を留保したものであるのに対し、資本金は株主から拠出されたものと考えることができます。学校法人は私立学校の設置を目的とする法人であり、教育研究活動を行うためには、教職員等の人的組織はもちろん、校地や校舎をはじめ、設備備品等のインフラが整備されていなければなりません。また、学校教育法等の規定により土地(借地権を含む)や建物、機器備品、図書などの物的資産は自己所有が原則です。このため、基本金制度は、学校法人がそれぞれの建学の精神にのっとって、教育研究活動を行うために必要な資産を継続的に保有し、維持し続けることを担保するための制度であるといえます。
 学校法人会計基準と同様に社会福祉法人会計基準でも貸借対照表の純資産の部に基本金が用いられています。学校法人も社会福祉法人もその法人の目的とするところは異なりますが、いずれも株式会社等のような営利を目的とした法人ではありません。しかしながら、学校法人と社会福祉法人は、その設立の背景が異なるため、以下のとおり、同じ基本金であってもその概念が異なっています。
 
 
基本金(学校法人会計)
基本金(社会福祉法人会計)
根拠 学校法人会計基準第29条及び第30項1項 社会福祉法人会計基準第4章4(2)
定義 学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その事業活動収入のうちから組み入れた金額 基本金には、社会福祉法人が事業開始等に当たって財源として受け取った寄附金の額を計上するものとする。
対象資産等 ・ 学校法人が設立当初に取得した固定資産で教育の用に供されるものの価額又は新たな学校の設置若しくは既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために取得した固定資産の価額(第1号基本金)
・ 学校法人が新たな学校の設置又は既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために将来取得する固定資産の取得に充てる金銭その他の資産の額(第2号基本金)
・ 基金として継続的に保持し、かつ、運用する金銭その他の資産の額(第3号基本金)
・ 恒常的に保持すべき資金として別に文部科学大臣の定める額(第4号基本金)
・ 社会福祉法人の設立並びに施設の創設及び増築等のために基本財産等を取得すべきものとして指定された寄附金の額
・ 前号の資産の取得等に係る借入金の元金償還に充てるものとして指定された寄附金の額
・ 施設の創設及び増築時等に運転資金に充てるために収受した寄附金の額
未組入額 あり なし
 
 社会福祉法人は、従来の公益法人に代わり、強い公的規制の下、助成を受けられる特別な法人として創設された経緯から、所轄による規制・監督と支援・助成が一体的に行われ、安定的な事業の実施を確保するための仕組みが制度化されています。このため、社会福祉法人会計は、事業活動を継続するために維持すべきものとして収受した寄附金で取得した基本財産等に対応するもののみが基本金とされています。一方で、学校法人が設置する私立学校は、国公立の学校と同様に公教育の一翼を担っている点においては変わりがないため、私立学校法による規制等「公共性」が求められます。一方で、学校法人は、創設者の寄附行為によって設立された法人であるため、「自主性」が尊重され、建学の精神や独自の校風が強調されたり、所轄庁の権限が国公立の学校の場合に比べて限定されているという特徴があります。したがって、学校法人は、社会福祉法人に比べ所轄庁による規制が弱い反面、自主性が尊重され、公的支援は社会福祉法人に比べ少ないといえます。このため、学校法人ではそれぞれ建学の精神にのっとった教育研究活動を行うために必要な資産を継続的に保有し、維持し続けることを担保するために、その事業活動収入のうちから組み入れた金額を基本金とする制度が設けられているといえます。

(公認会計士 芦 澤 宗 孝)

0 件のコメント:

コメントを投稿